天羽孔明『雪女に出逢いし話』

 若い頃に雪山で遭難しかけた時、雪女に出逢って助けられたことを妻に話すと、妻はとても哀しげな表情をいたしました……。
「あぁ、あの時のことは、けっして誰にも話さないでと言ったのに……」
「では、やはり君があの時の雪女だったのか……。僕は、どうしてもあの時のお礼を君に言いたかったんだ。僕はね、君のおかげで良い人生が過ごせたよ。ありがとう。さあ、僕はもう君になら殺されてもいいよ……」
「いえ、愛するあなたを殺めるぐらいなら、私はここで雪となりましょう……」

 そう言って妻が雪となって消えた日の夜、僕もまた、老衰でゆっくりと目を閉じました……。