真木真道『雪人』

 雪に悩まされる地では雪に纏わる怪異が多く語られる。
 雪人は大雑把なフォルムこそ人を思わせる形をしているが首はなく、腕はあるが指はなく、目鼻耳といったディテールにも欠けたのっぺらぼう。要するに単なる雪の塊でしかない。しかし、足があるので歩ける。関節を持たぬ丸太のような足を地を摺るように前後に滑らせながら移動する。大きさは個体によってまちまちで決まってはいない。小さいのは幼い子供くらいの身長だが、巨大なタイプは頭の先が平屋の屋根を越えるほど高いこともある。大抵は人よりもやや大きい程度、共通の特徴はぶくぶくと丸く太っていることだ。雪が降り続く時などは新たな降雪を身に纏い更に膨らんでいく。
 雪人達は群れをなして移動する。動けるのは深夜の決まった短い時間帯に限られるようだ。群れの規模は状況によって様々だが、開けた場所を夥しい数の雪人達が月の光に照らされながらもそもそと静かに行進して行く様は美しく壮観だという。彼らは決して人を襲ったりはしない。家の中に入って来ることもない。害といえばバランスを失った雪人が倒れて崩れ、運悪く間近にいた人を埋めてしまう事故が極めて稀に起こる程度だ。
 雪人の怪は自然に発生するものではない。人が為す。雪人を操る力を持つ古い家筋があり、小さな形代を積もった雪の中に埋めて雪人を起こす。そして何やら呪いを唱えて行き先に導く。もちろん術の詳細はその家の者しか知らない。その家筋も今は少なくなった。
 雪人を動かすのは術者にとっても相当な負担が心身に掛かるようだが、年寄りや女子供しかいない家からの頼みなら酒一本の礼で快く引き受けてくれることが多いという。
 除雪は重労働なのだ。雪に自ら動いて退いてもらえればこんなに助かることはない。世界有数の降雪量に苦しむ青森らしい術であろう。