真木真道『火の怪』
真冬の夜。雪道の上に焚き火のように炎が踊っていることがある。近づくと燃える物など何もない。ただ火がそこにある。不思議に思いながらも凍えた体を温めようと手をかざす。
しかし、それはいけない。雪が燃える火は冷たい。たちまち体の芯まで冷え、身動きもできなくなってしまう。
昔は北を行く旅人がこれによくやられた。まいね火という。
また、夕暮れに火が降ることがある。
赤くちろちろと燃える火の粉が雪のように降り注ぐ。これも熱くはない。掌に受け止めるとしゅんと消える。
だが、積もる。火が屋根に道に木々の上に積もっていく。積もって燃え上がることはないが、景色が赤く埋まる。夕日の照り返しの中、世界が赤一色に染め上げられる。
一晩経つと雪が積もっているだけだ。名は特にない。