岩里藁人『アイスキャンディー』

 半分くれよ、と兄ちゃんは言った。いやだ、とボクは言った。半分あげればよかったんだ。アイスキャンディーは二本あったんだから。
 まん中で二つに割れるアイスはボクの大好物で、冬でもおこづかいで買って食べていた。アイスをあげなかった翌日、地震があって、その後きた津波が、兄ちゃんも、家も、町も、すべて流してしまった。ボクは卒業式の練習で小学校にいたので、助かった。
 その日から、ボクは祖母ちゃんたちと体育館で寝た。こわい夢を見て目がさめると、へんな模様の天井が見えて、ここは家じゃないんだと思った。トイレに行きたくて外に出ると、町の方が真っ黒だった。本当にもう兄ちゃんたちはいないんだと考えながら、オシッコをした。
 一週間くらいたって、毛布にくるまって寝ていると「ケンジー」とボクをよぶ声がした。兄ちゃん? と飛び起きて外に出ると、にこにこ笑いながら兄ちゃんが立っていた。兄ちゃんだけじゃない、隣のおばさんも、いつもアイスを買いに行ったコンビニのお姉さんも、みんな笑って立っていた。その後ろには、町の光がいっぱいについていた。
 よかった、みんな夢だったんだと思ったところで、目がさめた。いつもの、へんな模様の天井が、ぐにゃあとなった。
 外に出ると、やっぱり町の方は真っ黒だった。兄ちゃん、と声に出してみた。声に出さないと自分まで消えてしまいそうだった。

 ――兄ちゃん、ボクは大きくなったら、あの黒い町に明かりをつける人になるよ。ひとつひとつ明かりをつけて、町が元通りになったら、また今日みたいにみんなで会いに来て。そしたら二人で高いところにのぼって、見下ろそう。兄ちゃんたちの町の光と、ボクたちの町の光、ふたつ並んで、きっとアイスキャンディーのように見えるから。