2011-10-07から1日間の記事一覧

きむら『こだま』

鬱蒼とした森の小道、じめっとした空気が絡みつくように覆い被さってくる。夜通し降り続いた雨のせいなのか、黒土が水気を含んでいっそう軟らかくなっていた。一歩足を踏み出すたびに、枯れて変色した落ち葉ごとずぶずぶ膝までめり込んでいく。 引き上げよう…

松音戸子『クニマス』

膝の手術で入院中、クニマスが見つかったというニュースを見た。 秋田県の田沢湖の水質が国策により変化したせいで、絶滅したと思われていた淡水魚。そのクニマスが遠く離れた山梨県の西湖で70年ぶりに発見されたという。 動かせない足に反して、私の心はあ…

時貞八雲『薄墨の笛の音は今』

太陽がちょうど真上に昇った。夏なら暑いのだろうが、木々が色気づきはじめた秋では肌寒さを感じた。 砂がざらつく石段を上り、私が高館義経堂の前に来ると、男が一人怪訝な表情を浮かべながらこちらを見ていた。えらく小柄な男だった。 私が不快感を表すよ…