『昔話』/いわん

「むかしむかし、このあたりには『雨風祭』っちう祭があってな。今年は台風が来ねように、米ばたくさん取れますようにって、神様に生け贄捧げてお祈りするっちうのがあったんじゃ。生け贄いうてもな、人の形に編んだおっきな藁人形さこしらえて、それを村の外れで燃やしながら神様さ祈ってたんだわな。んでな、なんちうたかな、鬼首村だかそげな名前の村だったかの、その村さ他の村とちいと事情が違ってな、藁人形の代わりにな、その年の年男と年女を一人ずつな、そのおっきな藁人形さ詰めて、神様じゃのうて、鬼様に生け贄さ捧げてたんだべさ。鬼様は毎年、その男も女も食べてしもうての、翌朝、その鬼様が全部食べたらその年は米さたくさーん実って、食べ残した年は大して米がとれんちう話でな。でな、だんだん鬼様が喜ぶよう喜ぶようにと柔こくてちっさな子供さ捧げるようになったんだとさ。したら、今度は鬼様、子供じゃ食べ足りなくのうて怒って暴れだしての。ある年、祭の最中さ村さ降りてきて、村の者みーんなして鬼様に食べられてしまったそうじゃ。どっとはらい

「へぇ、そんな土地もあったんですか」俺は嘆息気味に言った。「まだその村にはその風習は残っているんですかね?」
「へへ、馬鹿こくでねぇ」老婆は笑った。
「今の時代にそげな習わし、残ってるわけねぇべ」
「ま、村自体が無くなっちまったからな。鬼様は今頃、生け贄が無くて腹ぁ空かしているかもしんねけどな」
ニタリと笑った老婆の犬歯が妖しく光った。