『白装束』/本間進

ざくっ、ざくっ。雪の降り積もった弘前公園を歩くと、自分の足音しか聞こえない。
高校生だった僕は、当時公園内にあった図書館からの帰り道、うつむきながら歩いていた。夕方だというのに、吹雪で薄暗い。本丸近くにある桜の大木や古井戸の跡も、すっかり雪の帽子を被っている。
ふと立ち止まると、積もる音まで聞こえそうだ。市民や観光客でにぎわう名所だが、真冬だけは人がいない。そんな静謐さを気に入っていた。
無心で歩いていると、いつからか後ろから足音が聞こえてきた。ふと振り向くと、かなり後方から、着物姿の女性が歩いてくる。白い着物に、あでやかな帯が見えた。近くに市民会館もあるので、何かイベントがあったのかなと思い、再び前を向き歩き出す。ざくっ、ざくっ、さく、ざくっ、さく。
何かがおかしい。帯の結び目に雪が積もっていた。傘を差さないのは地元住民としては当然だが、なぜ結び目が見えるのか。たまらず振り向く。さく、さく。彼女の足音だけが聞こえる。雪の中、目を凝らす。髷のかんざしが見えた。なのに、確実にこちらに近づいてくる。さく、さく、さくっ。
たまらず走り出す。なぜ後ろ向きで歩いているのか。
ざく、さく、ざく、さく。
走りながら振り向く。距離が縮まっている。顔が熱い。両腕を大きく振って、全力で走る。亀の甲門が見えた。走り抜ける。ざっ、ざっ、はっ、はっ。自分の荒い息だけが聞こえ、振り向くと誰もいなかった。
僕はそれ以降、冬の公園に足を踏み入れたことはない。