『神にしか解けない知恵の輪』/烏羽玉タロウ

 岩手県藤沢町在住のパズル作家花山環は完壁な知恵の輪を作りたいと思っていた。知恵の輪は解けなければ知恵の輪ではない。しかし花山が求めた物は人では解けない知恵の輪、もし解けるとしても神にしか解けない知恵の輪、人が聞けば冗談にしか受け取れないだろうが花山にとっては本気であった。ある日の事、家の表の方が騒がしかったので出てみると旅の者なのかこの辺りでは見ない三人連れの高校生ぐらいの青年が一匹の白蛇を囲み「うわー白蛇じゃん。珍しい!コイツ持って帰ってオークションで売っちゃおうよ。売れなかったら公園にでも捨てときゃいいじゃん」「よし、じゃあ俺、棒で押さえるから」言い出しっ屁の男とは別の男が白蛇を押さえようとすると白蛇は嫌そうに逃げる、逃げようとした所をもう一人の男が靴で鼻面を踏もうとしたので花山が物凄い剣幕で「やめんか、この罰当たりどもが」と詰め寄ると三人はそそくさとその場を後にした。白蛇はしばらく花山の顔を見つめると草むらの中に帰っていった。その次の日の事であった。花山の家に雨にびっしょりと濡れた一人の肌の色が透き通る程の白さの美しい女が訪ねて来た。そして花山に軒先でいいから雨宿りさせてくれませんかと言った。花山は家に入れた。その日から女は花山の家に住み着いた。花山も出て行けとは言わなかった。女が住み着いて半年経ちまるで夫婦の様に仲の良い二人であったが女は決して花山と契りを結ぼうとはしなかった。そして女は花山の側で毎日パズル作家としての偏執的なまでの姿を見続けてある日花山にこう言った。「私はあの日、あなた様に助けられた白蛇です。神にしか解けない知恵の輪、私が叶えて進ぜましょう。私と契って下さい」その日の晩、花山は初めて女を抱いた。そして次の日の事であった。ベッドの上に花山と女の姿はなく一匹の蛇と人の形で出来た知恵の輪があった。その知恵の輪を解いた人はこの世にまだ一人もいない。