『祖父とテレポーティング・アニマルの思い出』/ヒモロギヒロシ

 祖父は深山幽谷を渉猟し禽獣各位を狩猟するワイルドライフを二十世紀後葉までうっかり続けてしまった武骨かつ粗忽な男でした。彼いわく、山をウロウロしているとよくわからないものに遭遇することがままあったそうです。若い時分、熊の巣ごもりポイントを巡回していた爺が見たのは巣穴から突き出た素足二本。人間にしては異様に膝下の長い何者かが、穴に半身をうずめて何やら熱心にごそごそやっている。爺は静かにその場を立ち去り、以後その場所に近づいたことはないといいます。
 興味深い話がもう一つ。山鳥を捜す爺が藪に犬を放ったところ、見たこともない謎の野獣が飛び出てきたのだそう。謎野獣は傍の木を蹴りつけ三角飛びで爺と犬を撹乱、そのまま崖をひょひょいと降りていったのだとか。当時の僕(小三)は野獣の仔細を聞き出してみたものの、話者も聞き手も語彙、絵心共に乏しく正体解明には至りませんでした。
 その三年後。テレビで「野生の王国」を観ていた爺が「見た! 山! いた!」と何故か突然片言で叫びました。小学生の頂点たる小六となり、もはや夢見る少年ではなくなりつつあった僕はそれを聞いて大いに呆れたわけですよ。お爺ちゃんあれはカンガルーだよ、あの動物はオセアニアにしかいないんだよお爺ちゃん。わかりますかお爺ちゃん。などと、上から目線で祖父をいなしたものでした。
 しかし最近、宮城の某所ではカンガルーらしき生物の目撃談が多発しているようです。不思議な話ではありますが、してみると爺の話もあながち与太話ではなかったのかもしれない。でも、僕が『キン肉マン』を観ていたとき、腕が六本あるアシュラマンという超人を指さして「山でみた」と 言い放ったこともある祖父なものですから、うかつには信用できないんだこれがまた。