2010-08-29から1日間の記事一覧

『祖父と貂獲り罠の思い出』/ヒモロギヒロシ

祖父はつい最近までライフル担いで犬従えて山をうろついていたわけですから、実に七十余年も猟をしていたことになります。とはいえ後年のそれはゆるい道楽で、熊や鹿よりも鳥や小動物を狩猟の対象にしていました。 小四の冬休みのこと。爺が庭でノコギリを引…

『箱明神』/安堂龍

小学校四年生の時、私は青森県三沢市で両親と暮らしていました。 夏休み、市内に住む祖父に箱明神というまじないを教えてもらいました。 十センチ四方程度の、立方体の箱を作るのです。素材は何でも良いのですが、箱の上面が開閉できるように、蓋を作らない…

『捕獲!?』/槐妖

岩手県遠野市。その駅から北東に20分程車を走らせた所に観光地で有名なカッパ淵が妖しくも静かに時を刻み続けていた。土淵町の常堅寺裏に流れる小川は鬱蒼と茂った草木に覆われ、澄み切った水は木漏れ日を反射し心地良い音を奏でながら流れ落ちる。伝説の…

『祟り塚』/藤代京

ある廃村に石碑があった。 銘文は摩滅して読めず、いつからあるのもわからない。 その黒い石碑は、祟り塚として有名だった。 石碑にペンキで悪戯をした若者たちが、帰りに車ごと崖から落ちて、皆死んだ。石碑の写真を撮ったら、巨大な女の顔が透けて映りこん…

『忌み田』/藤代京

かつて東北のある地方に、抱人と呼ばれるものがあった。 人の呼称でもなく、物の名前でもなく、人と田圃の総称だった。より詳しく言うならば、抱人の血筋と、彼らが所有する田圃が抱人と呼ばれていた。なぜに抱人と呼ばれるかはわかっていない。荼枳尼が訛っ…

『祖父とテレポーティング・アニマルの思い出』/ヒモロギヒロシ

祖父は深山幽谷を渉猟し禽獣各位を狩猟するワイルドライフを二十世紀後葉までうっかり続けてしまった武骨かつ粗忽な男でした。彼いわく、山をウロウロしているとよくわからないものに遭遇することがままあったそうです。若い時分、熊の巣ごもりポイントを巡…

『こけしや』/孫弟子

大きくこけしを商っていた会社があった。 今も、細々と営業している。 こけしやの常連客の中に医者がいる。 大変熱心なコレクターで、来るのは決まって、珍しいものが見つかった時だった。 開かずの扉をこじ開けて、希少品が出た時。 老舗が倒産して、数十年…