『祟り塚』/藤代京

ある廃村に石碑があった。
銘文は摩滅して読めず、いつからあるのもわからない。
その黒い石碑は、祟り塚として有名だった。
石碑にペンキで悪戯をした若者たちが、帰りに車ごと崖から落ちて、皆死んだ。石碑の写真を撮ったら、巨大な女の顔が透けて映りこんでいたなどと怪異にいとまがない。
江戸時代に夫に惨殺された女が祀られている。いや、僧が悪さをする妖怪を封じたのだ、と怪異の由来には幾つか、あった。
郷土史家が調べたところ、由来が全て近年になって囁かれたもので、怪異の原因となる出来事は過去にさかのぼっても存在しなかった。
だが、祟る。
郷土史家が石碑の傍の木にぶら下がって、死んだ。
ポケットの遺書には、にじ…とだけあった。
語り得ぬものには、沈黙せねばならない。
その格言を守るように、戦後、小作人の立場から解放された村人たちは一人また一人と村を離れていった。
そして誰も居なくなり、石碑だけが残った。
苔むした石碑は、廃村で静かに眠っている。
空には虹色に輝く雲が幾つも、沸きあがっていた。