『母子こけし』/野棘かな

 小学5年生の時、同じクラスで仲良くなったみっちゃんはこけしを集めていた。
 これはお父さんとお母さん、これはあたし、これは弟の健と、暗い部屋のガラスケースの中に並ぶ大小のこけしを指したが、茶色の木目頭には蛇の目模様が描かれ初めて見る奇妙な顔をしたこけしに驚いた。
「もうすぐ赤ちゃんが生まれるの。女の子だからリボンをつけてあげる」
 そう言いながら、母親の実家から貰ったという小さなこけしの首に赤いリボンをぎゅっと巻きつけ、ケースに並べようとした拍子に、何の弾みか隣の小さなこけしが飛んで真っ逆さまに床に落ちて転がった。
「あらあら、男の子は暴れん坊ね」
 母親みたいな口調で拾い上げると
「あなたは黙って眠るのよ」
 また独り言をつぶやき、こけしを寝かせてお祈りをするように手を合わせると、くるりと振り返り、あっけに取られ見ていた私に向かって、にやりと不気味に笑った。
 ちょっと変な子だなと思ったせいか、自然に遊ばなくなった頃、みっちゃんは学校を休んだ。子どもの間でも噂は早く回る。弟が鉄道橋で足をすべらせ真っ逆さまに落ち意識不明で入院していることや赤ちゃんは首にへその緒が巻きついた仮死状態で生まれ、数時間で死んだという。
 気になり家を訪ねると、意外に元気で、大と小2本だけになったこけしを見せて額の両脇につけた赤いリボンを揺らして
「お母さんとあたしだけになっちゃった」
と笑ったが、さらに数日後、意識不明のまま弟が亡くなり、病気で入院していた父親までも亡くなったと聞いた時には連鎖する不幸に体が震え、もしやあれは逆身代わりこけしだったのかと怪しむ気持ちも生まれ、落ち着いたら聞こうと思っていたが、夜逃げするように急いで引っ越したので、みっちゃんとはそれっきり会っていない。