『お葬式』/国東

 黒い服を着るといつも胸が苦しくなります。いとこたちは声ばかり大きくて好きではないし、お兄ちゃんも頼りになりません。こういう時に、おいでと私の席を空けてくれたおばあちゃんは今日はお棺の中です。
「お兄ちゃん、あの灰色の、なに?」
 てのひらくらいのふわふわした大きなわたぼこりのようなものが、遺影の前を素早くすべったり煙と一緒にきらくに浮かんだりしているのが気になりました。いとこたちもひそひそ指して、猫っぽい、鼠っぽい、でも決してそれらではないということになりました。
「ねえねえお母さん、変なのがいる!」
 よけいな事を、と思いましたがしーちゃんが大人たちを呼んでしまいました。どれどれとおせっかいなカワハギさんがシュロ箒で飾り提灯の上を払いました。弓枝おばさんはすぐ飽いて、ばかな事をと笑ってぶどうを摘んでいます。
「あっち、おっちゃんあっち行った」
「こっちか、ここ?」
 みっちゃんが私の手をきつく握りました。テレビ台の影に追いつめられたそれは震えているようでした。底の青い、水色の目をしていました。カワハギさんが楽しそうに腕まくりをした時、テルやんがわーと叫びながら箱ティッシュを投げつけました。逃げ回るそれをそれでも指そうとするしーちゃんの目の前で私とみっちゃんはむちゃくちゃに舌を出して指をねじ曲げて、泣けとばかりに暴れ踊りました。
 風が吹いたのは、お兄ちゃんが窓を開けたせいです。お兄ちゃんは東の方を図形を描くように指して何か言いました。
 びゅうっと、風が渦巻いて部屋から外へ吹き抜けて行きました。まるで何かを思い出したようにそれははればれとした飛翔でした。
 後にいらしたお坊さまが、私たちを見てやたら鼻をひくつかせやがて渋面しましたが、結局何もおっしゃいませんでした。