2010-08-30から1日間の記事一覧

『ねぶた』/崩木十弐

父の仕事の都合で、小六の僅かな期間を青森県のR村で過ごした。転入生の私に、最初に声をかけてくれたのは光だった。乱暴でいたずら好きだが彼は悪い奴ではなかった。よくいっしょに、先生の自転車のサドルを隠したり、火災報知機を鳴らしたりして遊んだ。 …

『お葬式』/国東

黒い服を着るといつも胸が苦しくなります。いとこたちは声ばかり大きくて好きではないし、お兄ちゃんも頼りになりません。こういう時に、おいでと私の席を空けてくれたおばあちゃんは今日はお棺の中です。 「お兄ちゃん、あの灰色の、なに?」 てのひらくら…

『母子こけし』/野棘かな

小学5年生の時、同じクラスで仲良くなったみっちゃんはこけしを集めていた。 これはお父さんとお母さん、これはあたし、これは弟の健と、暗い部屋のガラスケースの中に並ぶ大小のこけしを指したが、茶色の木目頭には蛇の目模様が描かれ初めて見る奇妙な顔を…

『彼岸花の揺れる刻』/樫木東林

改札口を抜けると陸奥の風景が広がっていた。山並みの緑が色濃い。夏期休暇を利用して都会の喧噪を離れたのは正解だったなと思う。線路沿いの小道を私は歩き出した。あてがある訳では無い。そもそも目的のない気ままな旅なのだ。 しばらく歩いていると童歌が…

『わらしくん』/岩里藁人

結婚して青森に引っ越した妹の家には、家族とは別に「わらしくん」という住人がいるらしい。今年は姪の受験で帰省できないとの事で電話による慌ただしい取材となったが、できるだけ忠実に再現した。 【妹(42歳・主婦・パート勤務)の証言】 夕食を作って…