『ファッションエルフ』/ジャパコミ

「お前たち、鼻高の悪魔の仲間か!」
 なんだよ、いきなり日本語かよ。
 詰問の主は谷の向こう。パステルカラーの髪に尖り耳の人影が数体、弓を構え、大きな瞳で木々の間からこちらをうかがっている。規定に従いエルフ語で呼びかけると、きょとんとした表情だけが返ってきた。間違いない。
「ファッションエルフ、だな。まあ、そう言うことであれば、白服さん、後は頼みます」
 白い戦闘服姿の「白服さん」は、軍刀を抜くと、ジャンプひとつで谷を跳び越えた。その挙動には、表情も含め、一切の無駄がない。
 遠野、耳切山中腹に営まれる即席の小集落はいま、修羅の巷と化した。エルフもどきも多少は戦えるようだが、日露戦争の昔から剣を振るってきた「白服さん」に敵うはずもない。控えのハンターたちも出番はなさそうだ。
 まして俺たち管理官には、駆除完了までここで断末魔をカウントするより他に、やる事はなし。ペーペーの新人にいたっては、うずくまって耳を塞いでいるだけ、という有様だ。
「慣れろよ、新入り。これも仕事だ」
「何なんですか先輩! アイルランドへの送還だけで済むはずじゃなかったんですか?」
「本物のエルフならな。ありゃファッションエルフ、郊外型妖怪だよ。遠野近辺もだいぶ大型衣料店が増えてるってのに、県も業者もろくに対策してくれねえ」
「試着室の鏡から湧いて出るアレですか。でも、人間にはたいした害がないんでしょう」
「連中のテリトリー、天狗とかぶるだろ。天狗の個体数が減ってみろ。大ごとだぞ、お前」
「……先輩は、平気なんですか」
「俺だって胃は痛むさ。毎度、供養もしてる」
 供養って……と、新人は口を尖らせた。ひときわ甲高い絶叫を最後に、山に静寂が戻る。
「新入り。もうひとつ、切実な事情があるぞ」
「何ですか」
「妖怪保護区に固有種以外が棲みつくとな、世界遺産の登録申請に差し支えるんだよ」