『祠の中の髪』/塩垂

一か月程前に東京からこの田舎へ転校してきたアツヤ君は、僕と一番の仲良しになり、放課後はいつも僕の家で遊ぶのが習慣になっている。
 アツヤ君は僕の家に来る度、家の裏にある祠が気になるらしく、いつも祠のことを聞いてきたり、祠の扉を開けようと誘ってくる。
 僕はお父さんとおじいちゃんから、祠に失礼なことをすると、先祖の祟りがあると聞かされているので、いつもアツヤ君をなだめては、他の遊びへ誘っていた。
 今日もアツヤ君が遊びに来たので、僕は遊び道具を取ってこようと小屋へ行った。部屋へ戻ってみると、待っているはずのアツヤ君の姿がない。僕は直感的に祠だと思い、裏の祠へ急いで行った。
 そこには、アツヤ君が口から泡を吹いて倒れていた。祠の扉は開かれている。おじいちゃんを呼んだら、おじいちゃんは救急車を頼んでくれて、アツヤ君は病院へ運ばれて行った。その時おじいちゃんが、「まんだ力はのごってんだなあ。」と言ったのが耳に残った。
 アツヤ君はすぐに良くなり、2日で退院したけど、それから学校へ来なくなった。アツヤ君のお母さんの話では、毎晩「髪が、髪が…」という寝言を言ってうなされているらしい。
 祠の中には、僕の先祖の髪が一房祀られている。僕は前に一度、おじいちゃんが祠を掃除したときに、背中越しにそれを見たことがある。僕たち家族がそれを見ても祟られないのは、ちゃんと奉っているからだと思っている。アツヤ君がああなったのは、興味だけで祠の中を見たからだと思う。
 それから僕は、アツヤ君が早く学校へ来れるように、祠へ手を合わせるのが日課となっている。