『金魚姫』/不狼児

 みだら沼の底深く、金魚姫が棲むと人の云う。
 噂はまこと、その通り。

 昨晩。沼で釣り糸を垂れていると、女の人魚が浮かびあがった。
 くるり
 と腹を見せて水底に戻った女の腹は、金色に光っていた。
 底深い沼の澱んだ水越しにもはっきりと見えたのだから、間違いはない。金色の腹が水面を裏から叩いた刹那、まるで雷が落ちたように、水を伝わる電気が竿を持った両手を痺れさせた。
 女はそれきり消えた。
 二度と姿を現わさなかった。
 しばらくして、俺の口からいくつか玉がこぼれ落ちた。女の腹と同じ色で光っている。
 玉は水に落ちるとたちまち孵った。中からはしろうおそっくりの幼魚が飛び出して、ぴちゃぴちゃ跳ねた。