『人間腹』/鬼頭ちる

「お前、今何て言った?」 
 何気ない会話の途中だった。結婚報告のため、彼の実家へと向かう東北新幹線の車中、幕の内弁当を食べていた彼の手が止まった。
「だから、弟たちは二人とも養子だから、私たちとは血の繋がりはないの。確か前にも話したよね?でもちゃんとした家族だよ」
 私の言葉を聞いて、彼は「ちっ」と舌打ちをした。普段温厚で優しい彼からは、とても想像できない光景だった。
「念のため聞くけど、親戚や血縁関係に双子子の人はいないの?」
「……いないわ」震える声で私は答えた。
「お前、人間腹の家系だったのか!弟さんが双子だっていうから胸はってお前との結婚を実家に報告できたのに!よくも騙したな!」
 私は、彼の言葉の意味がさっぱり分からなかった。人間腹?弟たちが双子だから結婚を決めた?結婚するのはこの私なのに!
 泣きながら懸命に訳を問いただす私に、彼はもう私とは口をきくのも汚らわしいといった感じで、嫌そうにやっと答えた。
「うちは代々、由緒ある畜生腹の家計なんだ。俺の父親も双子だし、兄貴の嫁さんが産んだ姪っ子もかわいい双子だ。お前が人間腹の血筋だって知ってたら、絶対結婚なんか考えなかったのに。付き合いさえしなかったよ。本当に残念だよ、弟さんたちが立派な人間腹の双子だっただけにな」
 それだけ言うと、彼はもう一切私を見ようとはせず、次の停車駅で降りていってしまった。一人車中に取り残され、しばらく茫然としていた私は、ふいに鳴った携帯で我に返った。弟たちからの激励メールだった。
「姉さん、挨拶しっかりね!」
「落ち着いて、頑張ってね!姉さん」瞬間、弟たちへの激しい憎悪が沸き上がった。
『うるせえ!この畜生腹の化物どもが!』
 思わず返信していた。私は慌てて電源を切ると、震える手で携帯を閉じた。