『座敷童子』/ドテ子

 隠れキリシタンの名残だったのか、山奥の農村部には珍しく小さな教会がありました。教会と言ってもただの民家に十字を背負った小さなキリスト像があるだけの場所で、アメリカ人神父様一家が住んでらっしゃいました。
 神父様も奥様も一人娘のメアリーちゃんも気さくで近隣ともとても仲良くしていたのですが、開戦とともに次第に村八分にされ、しまいには血気盛んな若者に家に火をつけられ一家揃って殺されてしまいました。しかしながら、死に際にもしっかり抱いていたのでしょう、メアリーちゃんが大事にいつも持ち歩いていた青い目でブロンドの髪のお人形さんだけが焼け残されました。さすがの近隣農家でも神父様一家を不憫に思い、焼け残った人形を祀り弔いました。さすがに時節柄公に西洋人形を祀ることはできず、各家々を一年おきに転々とされ大事にされていました。ところが長い間これを続けていると、そのお人形の泣き声が聞こえてくるという噂がたち始めました。見てみると確かに涙を流したような跡が煤けた顔にくっきりと残っているのです。更にそのお人形の泣き声を聞くと災いが起きるのです。ある者は奇病に蝕まれ、ある者は不審な死をとげ、ある者は気違いになり、ある者は財産を失いました。ですから、各家々順番がきたときはお人形の泣き声を恐れ、大層手厚くもてなしました。その辺一帯の地主の家の順番が訪れたときも、贅を尽くした扱いでした。しかし、お人形の泣き声は聞こえてしまったのです。怒り狂った主人はこのお人形を燃やしてしまいました。その数日後、その家の者たちは全員何者かによって惨殺されることとなりました。それどころか、何が原因かはわかりませんが、それから生まれる子供達は皆死産だったのです。皆はこれをお人形の祟りと恐れ、今まで通りお人形の灰を廻して弔い崇めたということです。
 これが座敷わらしの始まりなのだと祖母から聞きました。