『おばあちゃん』/ドテ子

 おばあちゃんの家は山奥の農村部にあった。私は夏休みになると一人でおばあちゃんの家に来るのが恒例となっていた。
 その年も、一人で電車を乗り継ぎ、獣道のように細い山道を歩いて古い茅葺きの大きな一軒家を目指した。
「こんにちは」
 チャイムも何もないので、開けるのにコツがいる木戸を開けて、奥にも聞こえるように大声で言った。しかし、おばあちゃんの返事はない。昼でも暗いおばあちゃんの家はひっそりとしている。前もって、お母さんが電話を入れてあるのでいないはずはないと思い、家の裏手にある畑を探した。しかし、そこにもおばあちゃんの姿はなかった。もう一度家に戻って「おばあちゃん」と呼んでみた。すると、どこからともなく「はいよ」と返事が返ってきた。私は嬉しくなってあちこちおばあちゃんを探し歩いた。しかし、どこにもおばあちゃんの姿はなく、
「おばあちゃんどこ?」
 と、大声で言っても
「ここだよ」
 と、どこからともなく声が聞こえてくるばかり。不審に思ったものの、その日は疲れていたこともあり、そのまま寝入ってしまいました。
次の日も、また次の日もおばあちゃんは返事をするだけでどこにも姿はありませんでした。さすがに気味が悪くなり、予定を返上して帰ることにしました。
家に帰ってお母さんが非礼を詫びるために電話をすると、電話口からはおばあちゃんの声が聞こえてきます。 やっぱり家にいたのか、と狐につままれたようなすっきりしない気持ちでした。
あれから何年、何十年と経ったでしょう。
私の父親が76歳で亡くなり、母親が亡くなって49日経ちました。
今でもおばあちゃんは電話にでます。