『剣舞い様』/皇

鬼剣舞いは北上で有名だが、発祥とされる念仏舞は各地にあり、一部は信仰の対象となっている。元が小角行者だけに田舎に行く程その法力は重い。日高見で十五の娘が殺された。地元の高校に通う、今時珍しく清楚なそれでいて明るい人気者であった。亡くなった時彼女は妊娠していた。一人娘を亡くした両親は悲嘆に暮れ、日高見と対を成す日影魅の森の鎮守に願を掛けた。‥殺した輩を御成敗!‥と。父は敵を踏み懲らしめると云う足の底に陰十字の傷を入れ、母は己が髪を全て供えた。人目には判らぬ様に父は痛みを堪え、母は鬘を被り‥。通夜の夜更け、娘の家の屋根の上で舞う何者かの姿を見た者は居ない。煌と照る月を背に一心不乱に舞い、両手の扇をクルリと返しながら‥最後に四股を踏む様に両脚を広げてグイッと体重を掛け、扇で顔を覆い悲しみを表した。 初七日、二七日と両親の陰参りは続き、四十九日の夜‥日高見の三軒の家の屋根に、剣を持ち舞う妖しの影。かの娘を乱暴し、保身の為に殺した男等の家に剣舞い様の鉄槌が下る。力強く、しかし親の悲哀を背負った狂乱舞いは続く。一つ太刀の者が二影。腹の子の父だった男の元には二つ太刀の一際大きな影。三つの影は時に哀しく、時に荒々しくその剣を煌めかせ一夜舞い明かす。 神で在ろうか?鬼で在ろうか?何れ、人知を超えた「信心」の化身。次の日、男が三人死んでいた。一人は首を括り‥一人は川に身を投げて。そして、腹の我が子も殺した男は‥日影魅の森の入り口の古木に、高々と逆さまに打ち込まれて居た。凄惨で不可解な男達の死は、仲間割れの末の殺人と自殺と言う事で処理された。口外せずとも、地元では誰もが知っている。剣舞い様が来た事を。娘の御霊を救った事を。 日高見の古老が安堵して呟く。「今年は三夜通しの大祭じゃの‥」と。