『白い布』/チアーヌ

 私は山形市の、山の麓の住宅街で育った。
 秋口だったと思う。その日はとても良く晴れていた。小学校から帰って、家の二階から外を眺めていた私は、ふと妙な物に気がついた。山裾の林の木から、何か白い布のようなものがだらんと垂れ下がっているのが見えるのである。なんだろう? と思っていると、ちょうど家の前の道路を友達が通りかかったので、呼び止めて二階へ呼んだ。友達にも同じ物が見えるという。

 なので、一緒に見に行くことにした。林までは走れば三分もかからない位の距離だ。そこは昼でも暗く、普段はあまり行かない場所だった。林と言っても植林の後放置されているような杉林で、どんぐりひとつ落ちていないようなところなのだ。が、何かあるとなれば別だ。しかし、林に到着しても何も無かった。家の二階から見えた白い布などどこにも下がっていなかった。

 なんだか腑に落ちなかったが、仕方がないので私の家まで戻って二人で遊ぶことにした。すると二階の子供部屋から、またあの白い布が見える。気になるのでまた行ってみることにした。しかしやはり近くまで行っても何も無い。私と友達はウロウロと林の中を歩き回った。そのうちに、辺りはどんどん暗くなってきた。帰ろうかと思い始めた頃、何かが目の端で揺れた気がして、振り向くと白い布がぶら下がっていた。さらしの反物が木に引っかかって、だらりと下がっているような感じだった。友達が近寄って引っ張ったけれど、布は落ちて来ない。そのうち飽きて、帰って来てしまった。

 それからひと月ほど経って、林の辺りに人がたくさん集まっている日があった。珍しいことなので友達と一緒に側まで行ったが、大人に阻まれ近くまで行くことはできなかった。
 
 家に帰ってそのことを話すと、母が、「今日あそこで首吊りがあったんだ」と教えてくれた。