『狐空』/まろうにい
「ナビに頼ったのは失敗だったか……。」
何度か漏れた独り言がまた漏れた。今更仕方がない。既にあの最後の角を曲がってから一時間が経つ。
目の前は薄暗い森か切り立つ崖に挟まれた細い道で、折り返そうにも無理だ。第一、運転は得意ではない。
なのに、三陸沿岸に引っ込んだ古い友人に会いに車で出たのは利便性と、景色に誘われて、だ。コバルトブルーの海と、入り組んだリアス式の険しい海岸。そして、青い空。
しかし、そんな景色は見えない。唯一の救いは空だけは青々と細い天の隙間から見えることだった……。
右に左にとハンドルを切っていると、久し振りに真っ直ぐな道になった。ただし、両側は見上げるような崖で、道はこれまでより狭く、おまけにひどい勾配だ。思わずナビを見たが、一時間前から同じ表示だった。
仕方ない。そろそろと、ゆっくり車を進めた。これ以上は車をぶつけたくない。
あともう少しだ。もう少しでこんな道も終わる。先に見える青い空まで行けば。青い青いあの空まで……。
次の瞬間、天地がひっくり返った。体が浮く感じがしたかと思うと、目の前に青い色が広がった。しかし、それは空ではなく海だった。それも一瞬で、視界が上に下に目まぐるしく変わると、真っ暗になった……。
その後。病院に来てくれた友人の話では、道なき道を突っ切り、岬の先から落ちていたそうだ。全く見当違いの方向に走っていたらしい。そんな覚えはないと友人に話すと、疲れてたか狐に化かされたんだろうと、冗談混じりに笑うのだった。
しかし、私は笑えなかった。確かにアレは狐だ。あの一時間前の角ではねた狐。あの目の色だと……。