『ぼくのむら』/WAX

 僕は大学生の頃から、東北の山奥にある田舎の村に通い続けている。老人しかいないその村に、なぜ通うようになったのかというと、そこに素晴らしいものがあったからである。
「まだ来たのか」
 腰の曲がったお六さんが僕を見つけて声をかけてきた。
「うん。また貰いに来たよ」
 僕は銀座で買ってきた菓子箱を渡す。
「ほぅほぅ。これおれ好ぎだよぅ」
 皺だらけの顔で笑いながら箱を抱えた。
「みんなのとこにも買ってきてあるよ」
「そりゃいがたわ」
「なんでも欲しい物を言ってよ。本当なら、お金を上げなければならないんだから」
「金なんていぎやね。うまいもんがあればそれでいい。金あっても使うどごねし、墓まで持っていったら汚れてアンタも困るべ?」
「いや、まあ、ははは」
「おれもいずれいぐからよ。暫ぐたったら使いな」
「うん。ありがとうね」
 僕はポリ容器を持って村の奥に向かう。そこには墓場があった。ここの人達は大きな甕に遺体を収め、墓場に埋葬する。東北の埋葬方法を調べていた僕は、他とは違うここに興味を持った。なぜそういう埋葬方法を取るのかと聞いたら、
「あどで飲むんだ。身体さいいんだし。昔は食いもんや薬にもしていだからの」
 甕の中の遺体は、五年ほど経つと水になってしまう。その水は栄養価が高く、痛みを緩和する効果があるという。僕はそれを、難病の痛みを緩和させる水として売り出した。
 びっくりするほど売れた。どんな薬を用いても駄目だった痛みが和らいだ、と感謝のメールも大量に貰った。今日も続々と注文が来ている。僕は今では大金持ちだ。
 もちろん死体から出てきた水だというのは秘密である。