『夜、叫ぶ』/御於紗馬

 私の住んでいる築三十年超のアパートの隣は数年前まで空き地だったのですが、結構な値段の建売住宅が軒を連ねまして、唯一良かった日当たりがすっかり悪くなりました。当時は景気も良かったこともあって、販売から半月せずに全て埋まってしまったのですが、引越してきたご一家のお車が品川ナンバーのアウディだったりしたので、多少なりとも人生に敗北感を感じたりしたものです。
 建売の一軒は東北の何処かのナンバーが停まっていて、少々違和感を感じていたのですが、この家に人が住んでからというもの、深夜に子供の奇声が聞こえる事がありました。
 発情期の猫の声ではなく、通勤時に地下鉄に乗り込んできた小学生のような、ハイテンションなキンキン声。何を言ってるのかは分かりませんが、明日も早い宮仕えの身としてはなかなか辛いものがあります。
 ですが、日曜日に見かける洗濯物を鑑みるとお子様は居ない様子。朝や帰りに、たまに見かけるのは少々お年を召された品のあるご夫妻。少し陰が有りますが奇行に走るようには見えません。
 幸いにも、毎日とは行かず、三日に一度か週に一度、時間としても一分しないぐらいだったので、怒鳴り込むの我慢していました。いや、一月もすれば慣れてしまいました。
 そんな、残業調整で早く帰った日の事。そのお宅から小学生が十人ばかり、ゾロゾロ出て来て驚いたことがあります。ソロバンを教えているようには見えませんが、雰囲気としてはそんな感じでした。それから何度か、同じような光景に出くわしました。
 一年ばかりした頃に、急にそのお宅から人気が無くなりました。折しも、景気が低落してきた時期です。夜逃げかな、とは思いましたが、意外とすぐ、今度はお子さん二人のご家族が引っ越してきました。
 夜中の奇声は無くなりましたが、今度のご家庭は、夜中の二時頃に洗濯機を回します。