『お菊の供養塔』/刈田王

 マイホームを買った。新しい家に引っ越して来て、ひとつ気になることがあった。家鳴りである。夜になると、ギギギィーッと鳴るのだ。そんなことがあって一週間が過ぎたある日の朝、こんどはコップがひとりでに横に動いた。地震かなとも思ったが、家族皆が気味悪がった。
 隣りのおばあちゃんがやってきたのはそんな時だった。おばあちゃんは庭を見て「庭さ菊植えてなんねーッ」と言って菊の植えてある所を指差した。その訳をおばあちゃんに聞いた。おばあちゃんの話を要約するとこうだ。大分昔、マイホームの建っている所は「お屋敷」と呼ばれて、番町皿屋敷と言う話に端を発していると言う。侍女お菊に懸想した青山某は、家宝の皿になんくせをつけて、屋敷にあった井戸でお菊を殺害した。それ以来殺害されたお菊は、恨めしい声で1枚2枚・・・と数えながら9枚迄数えてはやめて、青山某を呪ったと言う。その後も青山某の子孫まで、お菊の怨念は消えることはなく、居所を転々と変え、最後に片倉小十郎の城下町に辿り着いた。
 青山某の子孫の身辺には常にお菊の怨霊が付きまといつづけた。思案に余ったその子孫はお菊の亡霊を慰めるため屋敷の一隅に供養塔を立てて、心からお菊の冥福を祈ったと言う。
 おばあちゃんは指差して言った。「あぞごサ、小さい石塔あるべサ、あれがお菊の霊サ祀った供養塔だワ」おばあちゃんが指差した方を見ると小さな石塔らしいものが見えた。
 近づいて見るとお菊と言う文字がかすかに読み取れた。ここが「お屋敷」と呼ばれる屋敷後なのだ、これまでの家鳴りやコップがひとりでに動いたりしたのも、お菊さんの怨霊の仕業だったのだろうか。おばあさんの言うように庭に植えてあった菊をすべて取り除いた。するとその日から、不思議な出来事はなくなった。