いわん『雪質』

東北の冬は妙に寒い。
北海道の雪とは違って重く、吹く風も強く冷たい。札幌の雪は軽くて、そして美しかった。それに引き換え……僕はトラックがはじき飛ばす、雪が溶けた水しぶきに閉口しながら夜の街を歩いた。
寒さから言えば、札幌の方が寒い。でも辛いのは東北の方だ。こんな重く汚い雪景色では……そう思いつつ、友人と待ち合わせた場所へと急ぐ。
「よおよお、よく来たな。どうだ?北海道から来た身なら、そんなに寒くないだろ」
――寒さの問題じゃない。この雪は「気持ち悪い」んだ。
そう思ったが言葉を飲み込んだ。そんなことで友人を嫌な気分にはさせたくない。
「風が冷たいな」そう僕は答えた。「雪質も違う。北海道とは別種の寒さだよ」
「まぁ、そういうな。これが『東北の寒さ』だよ。住めば、慣れるもんさ」
そう言った友人に促され、友人なじみの店に入る。熱燗が身にしみた。
「美味いなぁ」というと、
「その美味さも、この寒さがあればこそ、さね」と、友人は嬉しそうに杯を傾けた。

友人と別れた後、ホテルに戻ろうとした足がよろめいて、僕は転んでしまった。あの雪がコートを濡らす。
嫌だなぁ、と思いつつ立ち上がろうとするが、なぜか滑って上手く立ち上がれない。
周りに助けを借りようとしたが、誰も僕が倒れている事に気がついていない。まるで僕が見えていないかのようだ。
降りしきる雪が目を覆い、視界が奪われる。雪が重く降り注ぎ、寒さで身体も動かなくなってきた。寒い。重たい。立ち上がれない。なんだこの雪は。
雪はどんどん重く降りしきり、僕の身体を覆って――