蔦木 嘯閑(つたぎ しょうかん)『添付画像』

「なぁ、知っとぉか?」

 友人はそう切り出した。学校が終わった放課後の教室で暇を持て余した彼は徐に話し始めた。
 地震あったやろ、あの日。自分もびっくりしたけどな。あの日のメーリスでさ、知らないメールが一通来たんよ。なんや、節電かなんかかと思ったら、変なメールでな。添付画像があるだけでなんも書いてへん。お前んとこには来おへんかったか?そうか、来んかったか。画像は一枚だけでな。真っ黒の画像やった。周りのやつらはそのメール来てるやつもおったで。なんか皆消すに消されへんでな。今も携帯に入ってるらしい。俺も持ってるねん。あ、お前にも送っとくわ。あの日のこと少しでも忘れたくないやろ。東北なんて京都からしたら遠いけどおんなじ日本やからな。
 彼はそういって携帯を取り出し、メールを送信した。時々、廊下を気にしているのがこいつらしい。
 その後、俺たちは別々の帰路についた。家は逆方向だ。一人で夕方の京都の古い街と新しい街が混じる道を歩きながら、携帯を確認した。着信メールは一通。あいつからのメールだ。俺は添付画像を開かなかった。ああ、なんとなく。メールの本文欄は白紙のままだった。あの日のことを思い出す。地震発生を知ったのは携帯サイトだった。東京の友達が騒いでいたはずだ。京都はほとんど揺れなかった。日々繰り返された報道が目に焼き付く。俺は東北に行ったことがない。でも、おんなじ日本なんだよな。
 次の日、学校に行くとあいつが寄ってきた。あのメールなんやけど、夜はきいつけや。特に風呂場は水の音がするからあかんのやて。それだけ言い残してあいつは一番前の席に座った。そして、授業開始の本鈴が鳴った。

「なんや、よぉ解らへんやっちゃな」