三田尤『影法師』

そういえばさ、と礼二口火を切った。
「……岩手に出張した時、あっただろ?上司の実家に泊めてもらったんだよ。それで夜に、今日みたいに怪談話しようって事になって、ノリコシって妖怪の話聞いてさ。妖怪なんているわけないって言ったら突然外歩いて来いって言うんだ。上司だし仕方なく外歩いたよ。そしたらさ。なんか、いるんだよ。でもよく見えなくてさ、目ぇ凝らしたらなんか大きくなるんだよ。どんどん、どんどん、大きくなる。影法師みたいなやつが、俺よりデカくなってくから、慌てて頭から下へ下へ見た。それがノリコシを避ける方法だったから。避けられないと、道の奥に連れてかれるんだってさ」
「道の奥、て、なに?」
「誰も知らない場所。探したって見つからない」
「怪談話っぽい……あれ?……あそこに誰かいない?よく見えないけど……なんか、どんどん、大きくなってる気がする」
礼二は気づかない。裕子だけが、見てるようだった。