2011-10-01から1日間の記事一覧

アップロード遅延のお詫び

都合により、アップロードが遅くなりましたことをお詫びいたします。(わ)

国東『噛む子』

末っ子なんだからお前が世話をしろ、とお姉ちゃんが子猫の尻尾を掴み勢い良く投げつけてきました。夢かと思いましたがそうではなく、庇う間もなく噛まれました。引き剥がそうとしても子猫は思ったよりずっと伸び、飽きず何度でも食いついてきます。 うるさい…

村岡好文『太古の虫』

彼がなぜそれを買う気になったのか、おそらく彼自身もわからない。久慈は琥珀の産地である。しかし彼にはそんな物を身につける趣味もなければそれを贈る相手もない。彼が指先ほどの琥珀のかけらを買ったのは、だから運命だったのかもしれなかった。虫や草が…

三田尤『影法師』

そういえばさ、と礼二口火を切った。 「……岩手に出張した時、あっただろ?上司の実家に泊めてもらったんだよ。それで夜に、今日みたいに怪談話しようって事になって、ノリコシって妖怪の話聞いてさ。妖怪なんているわけないって言ったら突然外歩いて来いって…

蜂葉一『かしわん』

佐渡には金を貸す狸がいたそうですが、わたくしども三戸の狐は膳椀を貸します。それで何を利子に頂くかといいますと……古来より「椀の借りは木と肉を取り替えて返せ」と申しましてね。つまり、相応のしし肉を椀に盛って返却してくださればよいのです。 昔は――…

蜂葉一『御山掛けのこと』

年が明けるとわたしはもう十五歳で、春の「御山掛け」に参じないといけない年頃になっていた。村のおとなたちは言う。 「十六才、御山掛けをしない者は一人前とみるな」 渋々ながら白装束と雨ゴザに身を包み、飯豊山神社の麓宮に篭る。御山入りの前に、ここ…

クジラマク『幽契』

勝利の雄叫びのつもりか、崖に追われた俺に向かい屠殺場の豚の断末魔のような咆哮をヤツが闇夜に吐いた。追っていたつもりが追い詰められていた。後がない。万事休す。頼みの村田は弾が詰まり使い物にならない。残るは槍一つ。ないよりはマシか。空薬莢を吹…

クジラマク『奇蹟』

我が里を訪れる少々変わった顔形の異人は住民達の仕事を手伝い、病人には無償で手製の薬を煎じ与えてくれる、巷間で謂われる様な、手当り次第女娘を攫い孕ませると謂う者とは別物で、誰彼からも愛される気立ての良い男で御座いました。収穫時には邪魔になる…