山野京子『魂の会』

 ここは三陸のとある海岸。≪津波で命を亡くした魂が、夕方になると徐々に集まって来て、『魂の会』が開かれる≫という噂をきいた僕は、恐る恐るやってきた。妹の有香に会うためだ。あの日、有香の手を離してしまったために、有香は波に攫われた。僕は一言謝りたくて妹の魂を探しに来たのだ。
 海岸にはざわざわと、見えない魂が集まっているようなので、僕は大きな声で叫んだ。
「誰か、妹の有香を知りませんか?」
「ああ、知ってるよ。今日はここにいる。有香ちゃん!お兄さんが来てるよ。」
「お兄ちゃん!来てくれたの?ありがとう。」
「有香の手、離してしまってごめん…。」
「そんなことはもう、どうでもいいよ。お兄ちゃんに会いたかった。有香、これでやっとお別れができる。私は違う世界に行くからね。さよなら。」
 有香はそれだけ言うと何処かへ消えてしまった。
「有香ちゃんが『魂の会』退会でーす。」
 誰かの大きな声がした。
「よかった。よかった。」
と、いろんな声がした。
 それから突然、後ろから僕は呼ばれた。
「裕太君なのね。隣のおばちゃんの田中です。うちの家族は今何処にいるかわかる?」
「おばちゃん…。みんな探してたんだよ。おばちゃんの家族はね。僕と同じ、仮設住宅っていうところにいるんだ。みんな元気だよ。伝えておくから。」
「そう、よろしくね。さよなら。」
 おばちゃんはそう言うと、大きな声で、
「田中香苗。今日で『魂の会』退会でーす。」
と言って、何処かへ消えて行った。
 こうして魂たちはみんな、『魂の会』を退会して行って、三陸には復興を遂げた美しい港が広がるのである。