八兵衛『魔物三兄弟』

 昔々のことでございます。みちのく地方のある村に、大きな大きな魔物の三兄弟が仲良く暮らしていたそうです。彼らに名前はありませんから、『壱』『弐』『参』と呼ぶことにしましょう。魔物兄弟の性格はそれぞれ異なっていましたが、外見は三つ子のようです。
 さて、人間にとって魔物は昔から恐ろしい存在です。近づきたくありませんし、言葉を交わすなんて想像すらできません。ですから魔物たちが村に現れたとき、村人たちは激しく忌み嫌いました。けれども時が流れたからでしょうか、あるいは村人たちに危害を加えないとわかってもらえたからでしょうか、近頃では無闇に嫌われることもなくなり、村人たちの生活に溶け込んでいるようでした。
 魔物たちは一日の仕事を終えると大海に臨む海岸に腰を下ろして酒を酌み交わし、お喋りを始めます。長男『壱』が口火を切りました。
「おらたちはどうして魔物なんじゃろうか? 魔物はもう嫌じゃ!」
「そうだ、そうだ。おらたちはこんなに心がやさしいし、村人たちの仕事を手伝ってるだ。天の神さまにおねげえして、おらたちも人間にしてもらえねえもんかな?」次男『弐』が相槌を打ちます。
 ところが、三男『参』は眉を顰めて兄たちを窘めました。
「あにさんたち、なにを言っとるんじゃ。わしらは恐ろしい魔物なんじゃぞ。どんなに上っ面を繕っても駄目じゃ。おらたちには魔物の血が流れているじゃから、最後は必ず魔物に戻るんじゃ。魔物は魔物じゃ!」
 翌日でした。大きな地震がみちのく地方を襲い、魔物たちが眠っている海岸に津波が押し寄せました。魔物の三男『参』の言葉は正しかったようです。