高柴三聞『飢饉の冬山に佇む女の話』

村のはるか彼方
深い深い雪の山の中
吹きさらす風が
雪に半分埋まった
シャレコウベを撫でると
それは、ヒューヒューと
人がすすり泣くような音を立てる
一人の声ではない
幾人も幾万人もの怨嗟の声
飢えと寒さと絶望と
眼球の収まっていたはずの
その暗い穴は
どこまでも続く地獄への入り口
シャレコウベにかかった雪の白よりも
もっと白い肌をした手が
シャレコウベに触れた
髪の長い女が、シャレコウベを
おのれの耳にそっとあてた
女は呟いた
今宵も地獄の歌を聞かせておくれと