山石千一『さんてつの夜』

 あの大震災、津波被災から三陸鉄道が全面復旧して一週間。当初、列車はかなり混んでいたが、少し空いてきたようだ。
 北リアス線の駅に着いたのは夕刻だった。予定していた列車に間に合わず、次の列車までかなり時間があったが、新装なった駅をゆっくり見ようとやってきたのだ。ところが、ホームには車両が止まっていた。臨時列車なのだろうか。慌ててとび乗る。
 車内では小学生ぐらいの子供からお年寄りまで、大勢の人が談笑していた。けっこう早ぐ復旧したな、これで皆も安心して暮らしていげるじゃ、といった声が聞こえてくる。
 列車が動き出した。海が見え、またトンネルに入る。真っ暗になり、ふわっと浮き上がる感じがしたかと思うと、列車は満天の星空のなかを進んでいた。嘘だろ! 食い入るように窓の外を見る。天の川がすぐ近くにあった。少女が寄ってきて、これ、あげる、と手に何かを握らせた。さそり座が後ろの方に去り、南十字座が近づいてくる。気がつくと、いつの間にか静かになった車内は私一人になっていた。

 突如、眩しい光が目を射ぬき、車輪の軋む音が耳を刺す。私はレールの上に横たわっていて、目の前には列車が止まっていた……。間違いなくあの列車に乗ったはずだ。車内にも人がいて……。握りしめていた手を開ける。手のひらには深海のものらしい、白っぽい小さな貝殻がのっていた。