宮本あおば『石碑』

 故郷の話だ。 
 不毛と言われた土地は、明治に入って大々的に開墾され、疏水も通った。遠い遠い湖から水を引く、長い工事を成功させた人々がいた。
 ずっと後で、祖父の一家が移り住んだすぐ隣には、洋館と枯山水の庭があった。大正の頃に建てられた開拓関係者の会館で、洋館が建つ前は、政府の出張所があった。
 祖父の家の建て替えの折に、事務所の建物は壊され、庭も改装された。庭から石碑が出て来た。縁側に置いておいたら、祖母が階段から転げ落ちたので、慌てて禰宜を呼んだ。郷土史家も来た。
 戊辰の戦で亡くなった人を慰める碑だった。町よりも遠いところに建てられた筈なのに、いつの間にかそんな場所に埋まっていたそうだ。明治元年の戦いの後、最初に出張所の建物が作られるまでの十年ほどの間に、碑が埋まっていたのかと、皆不思議がった。
「ここへ来て、今この時期に出たがったんだ。そういう事さ、あんだ」
 禰宜の言葉をただ一人、叔父が鼻で嗤った。
「そったことね。誰かが悪戯で埋めたんだべさ」
 酒席でのことだった。翌日、目が覚めると叔父はいなくなっていた。
 失踪したのではなく、父には弟など、最初からいないと誰もが言った。私の足には、叔父がふざけて向けた花火での火傷が残っているというのに。
 後年、戸籍謄本を見る機会があって、それには父の弟は三歳で死んだことになっていた。
 事あるたびに、禰宜の言葉を思い出す。「そういう事さ、あんだ」
 階段から転げ落ちて怪我をした祖母は、まだ健在でいる。