高田公太『雪女』

「なんぼ吹雪いじゃあばして」

 窓の外へ目を向けて、父がそう言った。

「今日だば、母っちゃ帰ってこねべが」私は父に問いかけた。

「こう雪深ぇば、帰ってくるがさもな」

 父が言うに、母は強い吹雪の日になると庭に立つのだそうだ。

 家には、一枚も母が写った写真がなかった。

「おめの母っちゃだっきゃ、たげ美人なんだや」

「父っちゃ、わぁ、一回見でみてぇじゃ」

 私はまだ母の顔を知らなかった。

 厚い雪雲が太陽を隠していた。

 私は冷たい窓ガラスに鼻をつけ、庭に目を凝らしていた。

 目の前では、青白い景色が散っていた。 

「どんだ、わらし。いるがぁ。雪女、いるがぁ」

「ううん。いねぇ。いねじゃあ。いねじゃあさ」

「んだが。んだべ」

「ああ、父っちゃ、ちょう待で。いる。いるじゃあ、いだじゃあ」

「ああん、いだってが」

「いるじゃあ!雪女だ!母っちゃだ!母っちゃだ!」

「いねえ!わらし!そったもん、いねえじゃあ!」

 父はそう言って私の頭を強くぶった。

「見ろさ!外見ろさ!あいは何よ!いる!見ろさぁ!酔っぱらいじじいこのぉ!」

 私が庭に向けて指を差すと、父は二階へ逃げてしまった。

 母を見たのは、これが最初で最後となった。

 私がまだ、七歳の頃の話である。