高田公太『あっこさ見えるあの山で』
むがしむがし、あっこさ見えるあの山で、おなご一人が迷子さなったんだど。
したっきゃ、真っ暗な山ん中で、おなご、おっかねして泣いてまったんだど。
あんま泣ぐもんだはんで、キツネっこ寝られねして、困ってまった。
ーーなんぼ、さしねぇおなごだしての。
ーーえんえん、キツネっこ。わぁ、帰りてぇじゃあ、家さ帰りてぇじゃあ。
ーーへば、わが帰らせてけら。
キツネっこそう言って、おなごの腕とばちぎって、ぽいっと薮さなげでまったんだど。
ーーわいわい、痛ぇじゃあ、腕もげだぁ。
ーーなんもなんも、こいで家さ帰れるはんで、さしねぇおなご黙れ。
こんだ、キツネっこ、おなごの足とばもいで、まんだ薮さぽいっ。
ーーわいわい、こいだば、わぁ達磨さなってまる。
ーーなんもなんも、達磨さだっきゃならね、ほれ、顔っこもほれ。
こんだ、首とばぽいっ。
こいで、おなごは、からだばし。
ーーやっどこいで寝られるじゃあ。
キツネっこ、そのからだ食ってまって、おぉんなが一杯さなってからぐぅっすりと休んだんだどさ。
とっちばれ。