蔦木 嘯閑『小さな石』
私は子供の時に拾った小さな石を今も持っている。
小学校低学年の時だろうか。親に連れられて行った宮城の浜辺で拾ったのだ。
それは蝶のような形をしていた。大きさの割りには軽い材質のものだ。色は白い。鋭角に拡がる翼は一瞬で私の心を惹きつけた。
私はそれを親に見られないようにこっそりポケットに入れた。なぜか見られてはいけないような気がしたのだ。
中学にあがっても捨てられなかった。その石は箱に入れて学習机の引き出しに閉まった。
それから数年は出す事はなかった。忘れていたというのが正しい。
東京への大学へ進学が決まったとき下宿先への荷造り途中で、その石を見つけた。
それは未だに鋭角の翼を持っていた。そして、下宿先に持っていく事にした。何故だったかははっきりと思い出せない。ただの好奇心だったのだろう。
その石を持っていると良いことが起きるようになった。
最初は些細なものだった。道端で500円を拾ったり、卵の黄身が2つだったり。そのうち、進級もサークル活動も上手くいくようになり、気がつき始めた。この石は凄い。
そうこうしている内に、初めての彼女が出来た。
彼女を家に呼んだとき、飾ってある石を見つけるなり「これ、捨てようよ」と言ってきた。理由を聞いても「気味悪い」しか言わないので、説明した。これが如何に幸運を齎しているのかを。彼女と出会ったのでさえ、この石のおかげであるかもしれないと思った。
そして、ついに宝くじで大当たりをした。その金で車を買った。
けれども、彼女を乗せて運転している時に大きな事故にあった。高速道路でトラックが衝突してきたのだ。私は大丈夫だったが彼女は亡くなった。
――石の祟りではないか。
数日後、彼女の葬式があった。
彼女の親とも仲が良かった俺は骨上げまでさせてもらった。
火葬後の骨を見るのは初めてだったが頭の部分に見慣れた石があった。
そこで、葬儀屋はこういった。
「これは蝶形骨というんです」