込宮宴『こけし、ありませんやろか』

こけし、ありませんやろか。私によう似たこけし、探しとるんです。
え、何でそんなんを探すんかって。
私にとってはお守りなんですわ。
いや、ほんまなんです。以前にも祖父が宮城のこの辺を旅行した時に、私にそっくりなんを見つけて買うてきたんですが、これには何べん助けられたか分かりません。
例えば、私、小学生の時に車に轢かれたんですけどこけしのおかげで無事やったんです。車のタイヤが間違いなく私の両足を踏んづけおったんですが、かすり傷一つありませんでした。
そのかわり、家に帰るとこけしの足元に大きなひびが入っとりました。
こんなんが他にも何べんもあったんです。これはもう、こけしが私の身代わりになったんやとしか思えへんのですわ。
そのこけしが先日、とうとうあかんようになってしもうたんです。
春先の事でした。私、仕事でこの辺に来とったんです。そんで、外を歩いとったら突然ぐらりときて、思わず座り込んでまいました。
はい、あの地震でした。
早う逃げたらよかったんですが、あんまりのことで頭が真っ白になってしもうて、揺れが収まってからも、立つどころか何もでけへんかったんですわ。
そうしとるうちに突然視界を上から何かが覆って、次の瞬間、物凄い衝撃が頭を襲いました。
ごきゃ、ちゅう音が耳の内側からして、景色が真っ赤になりました。
一瞬、自分が死んだと思うたんですが、その後は何も起こりません。恐る恐る頭に触っても別にどうもなっとらんのです。
顔を上げてみると、目の前に大きな看板が落ちとりました。縁が一か所えらくへこんどりました。
ああ、あれが当たったんか、こけしがまた身代わりになってくれたんやな、と思いました。
大阪の家に戻ってみたら案の定、こけしの頭が真っ二つに割れとりました。なんとか直そうとしたんですが、あきませんでした。
もう、私の身代わりはあらへんのです。
そんなわけで、こちらに私によう似たこけし、ありませんやろか。