須藤茜『ゆく先』

宮城県の沿岸部に住む友人から聞いた話である。

港の近くを歩いていると、たまに季節はずれにも防寒着を着た人たちに出会うという。夏の暑い日だというのに、何枚も洋服を重ね着して歩いている姿を見かけるそうだ。

「あの日は3月だけど、雪が降るほど寒かったから」

年齢も性別もその時その場所によって違うが、皆一様に、まっすぐ前を見ながら、同じ方向に歩いて行くのだという。

「岸壁までいくと、ふわって、消えるんだ。どうしてわざわざ海に行くんだろうって、思うけど」

うちのお兄ちゃんはまだ見ていないんだけど、まったくどこにいるんだか、と、友人は目を赤くしながら笑った。