VISIA『みちのく東北ガイド』
新聞を読んでいた男性は、紙面の隅に小さく掲載されている広告を見つけた。
『みちのく東北の癒しの映像を、貴方にお届けします。』
男性は、さっそく広告の申し込み住所に葉書を送り、代引きでソレが届くのを待った。
それから1週間が過ぎてビデオテープが届くと、男性は待ちきれずにソレを再生機に突っ込んだ。
すると、テレビの画面に里山の風景が固定映像で現れる。
川の水が流れる音、鳥の鳴き声、風で草がサラサラとたてる音など、男性が子供の頃に聞いていた懐かしい音に溢れていた。
男性は、映像の場所が知りたくなって、先程破いてゴミ箱に捨てた包装紙を確認したり、ビデオテープを一旦取り出してタイトルを確認したが、場所を示すものは見つけられなかった。
男性は手掛かりを求めて、変化の無い映像を更に1時間も見ていたがやがて飽きて、うたた寝を始めてしまった。
暫くしてテレビの画面では、急に強い風が吹いて撮影していたカメラが右に倒れたのか、映像が90度傾いた。
すると画面の隅に、首を吊った女性が現れた。
そして、女性の首にかかっていた縄が切れ、女性は地面に落ちた。
その時、女性はカメラ目線になったが、体は不自然な方向を向いていた。
その女性が、カメラへ向かってゆっくりと這って来る。
そして、カメラの目の前まで来ると、白濁の目をした青白い顔をテレビの画面一杯に映して、
『ここは…静かで…近くに温泉も…ある…場所は〇〇県〇〇駅から徒歩……という所から…山道を…』
と、口から泡を吐きながら場所の紹介を始めた。
だが男性は寝ていて、彼女の話を聞いていなかった。
結局、ビデオテープの再生が終わった後に男性は目覚めたが、取り出されたテープは巻き戻されることなくゴミ箱へ捨てられた。
男性は、つまらないモノを買って損をした気分だった。