安堂龍『参観日のモヤン』

 翔の両親は死んでいて、それで爺ちゃん婆ちゃんの家で暮らしている。サッカーが上手くて、この間は中学生相手の練習試合で得点を決めたほどだ(試合は負けたけどね)。さらに凄いことに、翔には守護霊がついている。いつも背中の上の方にモヤンとしたのが二人、フワフワしている。多分翔の両親だろう。もちろん、守護霊が見える僕も凄い!
 で、今日は参観日だったりする。黒板に書かれた『ありがとうを伝えよう』のテーマのもとに、誰かに感謝の手紙を発表しようっていうベタな授業だ。友達や家族に手紙を読み上げる人がほとんどだったけど、僕は恥ずかしいので隣のおばちゃんに感謝を捧げておいた。で、次は翔の番だ。
「爺ちゃんと婆ちゃんへ」
 声変わり中のカッコいい声で語り始めた。目がマジだ。休み時間の翔の言葉を思い出して、ちょっと残念に思う。
『爺ちゃん婆ちゃんには来るなって言っといた。いや、そりゃあ後で手紙は渡すけどよ』
 翔は目の真剣さと裏腹に淡々と読み進めた。
「幼稚園の頃親がいなくていじめられてよく泣きました。八つ当たりしてごめんなさい。小学校に上がっても友達に馬鹿にされてケンカして恥をかかせました。ごめんなさい。いつも親と比べてごめんなさい。でも今は違います。親がいなかったから、爺ちゃん婆ちゃんに育ててもらえました。それが嬉しいです。爺ちゃん婆ちゃんが一番大切で、俺は――」
 その時、翔の背後のモヤン達が動き出した。プルプルと震えている! まずいぞ。翔があんなことを言うから怒ったんだ!
『ずっと見守っていたのにこの親不孝ものめ!』
 と言わんばかりにモヤン達は腕を広げて翔を挟み撃ち! だけど攻撃は遅くて、その姿は段々薄くなって消えてしまった。
 翔は発表を終えて席へ戻った。彼は涙目で、だけど幸せそうに見えた。