来福堂『追慕の雪』

妹の綾が、除雪車に巻き込まれて死んだのは、小学校にあがる前の冬だった。春には一年生だったのに。白い雪が、真っ赤に染まった。あの凄惨な雪の色が、今も頭を離れない。
雪解けの頃、事故のあった辺りで、綾の手袋の片方を雪の中から見付けて、又、泣いた。
次の冬、その場所に立てば、新しい雪は純白で、あの日の悲劇が嘘のようだった。
綾は死んだのではなくて、隠れているのかもしれない、そう感じさせる白だから、思わず雪の上に向かい、
「鼠の声こ、わンちか」
そんな言葉が、ほろり、零れた。
これは、かぐれジョッコ、つまりは隠れんぼで、隠れた者を中々見つけられない時に、その声を聞かせて貰う為の掛け声だ。
そう言った刹那、雪の中から幽かな声が返った。それを聞いたら、あとは夢中で雪を両手で掘っていた。けれど、いくら掘っても雪ばかり。
この遊びでは、どうしても隠れた者が見つからない折には、めかけん、と声を掛ければ、その子に出て来て貰える決まりもある。だから僕は、大声で「めかけん」と叫んだ。
「兄ちゃん、ごめん。体に、失くしたとこがあるの」
雪の中から、申し訳なさそうな声がした。綾は女の子だ。そんな姿を見せたくはないだろう。仕方なく、姿を見るのは諦めた。
それ以来、冬ごとに同じ場所で、綾に声を掛ける。幼いままの声が、小さく返ってくる。故に冬は、哀しいけれど、愛おしい。
夕方に、かぐれジョッコをすれば神隠しにあうと聞く。冬の日はすぐ暮れる。どんどんと雪降れば、昼間も夕前のようだ。神隠しは黄昏を待たずに、間違えて綾をさらっていったのだろうか。永遠に、綾のかぐれジョッコは、終わらない。