青山藍明『月下の同窓会』

 私を「夜のドライブ」に誘った父は、鼻唄混じりにハンドルを握っている。私は助手席に座り、ふくれっ面をうかべていた。
さっきから、父は街頭も、住居もない、まっくらな道をひたすら走っている。それにも関わらず上機嫌で、幼いころの思い出をああだこうだと話している。
「ここには……そうだ、田圃があったなぁ。たにしをとったり、カエルを捕まえたりして、楽しかったなあ」
「急になに? こんなとこ走ったら、危ないじゃん」
「まあまあ、たまにはつきあえよ。おお、ついた。ここだ、ここ」
父はやっと車を止めて、窓を開けた。もう一時間は走っているだろう。
錆び付いて、今にも倒壊しそうな建物ばかりが、月明かりに照らされている。
危険だと国から言われ、泣く泣く離れた、父のふるさとだ。
「もう何年経つのかな」
そう呟くと、父は外に出て、おーい、おーいと呼び掛けた。
すると、瓦礫の間から、ランドセルを背負った子供たちが、にこにこと笑いながら飛び出してきたのだ。
「久しぶりだな」
「早く行こうぜ」
満面の笑顔を浮かべた父は、手をひかれながら、瓦礫のなかへと入っていく。
「ちょっと……お父さん!」
私はなにがなんだか分からず、車から飛び出した。
すると、瓦礫の山がふわあと青白く光り、鉄棒や遊具のある庭や、赤い屋根と擦りガラスの窓を持った、かつての学舎へと姿を取り戻していったのだ。
「やっと揃ったね」
父は上履き、私はスリッパを出されて履き替える。月明かりに照らされ、父と子供たちはそれぞれの席に座り、ワイワイガヤガヤと騒ぎはじめた。
やがて、教室のドアを開けて、ジャージを身に付けた先生が、出席簿片手に入ってきた。
「それでは、授業を始めます」
生徒たちはワッと騒いで、拍手をする。
私は教室の壁によりかかりながら、窓の外を見た。
そこには父の言うとおり、真っ青な田んぼが、風にそよいで揺れていた。