高柴三聞『氷柱女と百万年の孤独』

雪の日は、特に音のないような夜の雪が嫌いだ。
寒さだけではない。胸をえぐるような寂しさが襲ってくるのだ。寂しいから、酒を呑みに街へ繰り出し、毎夜彷徨った。そんな時に、その女と出合った。
街のはずれで一人、建物に寄りかかる様にして立っていた。
人恋しさに思わず女のほうに足が向いた。
女が、顔を上げる。まるで、叱られて泣いた子供がそうするように、上目遣いで私の顔を見た。
潤んだ瞳が、じっと私を見つめていた。一重の小さな瞳の中に、孤独の光を湛えて。この女は私と同じだとすぐに分かった。
互いの温もりを求め、共に同じ床に入るまで、そう時間を要することはなかった。お互いの素性は詳しく走らなかった。ただ、自分と同じ人間であると言うことだけで、十分だった。胸の中にキリキリと痛むような孤独を抱えている。
私の横で、女は髪を掻き揚げた。ふわりと黒髪が宙を舞った。金木犀の香りが鼻腔をくすぐった。
女が悪戯に、自分の指先を私の唇に添わせてきた。驚くほど冷たい感触がした。まるで、氷柱のように。両手で確りその手を包み込んでやった。二人で抱きしめ合い、そして崩れるように横たわった。
そして、もう一度唇を合わせようと、女の顔を覗き込んだ。
女は、口をゆがめて、恨めしそうに言った。
「いじわる」
途端に、周りの空間がぐにゃりと歪んだ気がした。女の姿が消えている。変わりに、掌がぐしょりと濡れていた。そして、すぐに分かった。また私は一人ぼっちになったのだと。濡れた掌を胸に当てた。
空っぽの胸が前にも増して切なかった。