綾部ふゆ『夢の話』

 夢を見た。
 そこは暖かくもなく、寒くもない場所で、太陽も月も出ていないのに、周囲がぼんやりと明るかった。
 私は裸足で、とぼとぼとあてもなく歩いている。
 潮の香りと桜の香りがする。春だなぁなどと思っている。
 だが、急に、物凄い力に引っ張られて地面に倒れてしまった。
 体が重く、息ができない。
 静かだったはずなのに、そこかしこから読経の声が聞こえてきて、わおんわおんと反響している。
 足が痛い。体が痛い。もうだめだと思った瞬間に目が覚めた。
 ああ、夢だった、良かったと思った途端、ぬっと人の顔が近付いてきた。
 余りの恐ろしさに目を閉じた私は、またさっきの場所に立っていた。
 これは夢だ、夢だと自分に言い聞かせるが、よく分からない。
 私は力強く目を閉じた。だが、


 目を閉づれば真黒黒の人のかおああ死ぬるとはかういふことだ