猫吉『弄石』

「面白い石があるから、見せてやる」
 叔父さんが持ってきたのは子供の頭ほどの石だった。真ん中に丸い穴があいている。
 確かに珍しいが、嫌なものを感じた。なんでも青森県で拾ってきたというが、本当は持ち出してはいけないものらしい。
「穴のある石には、女性の念がこもるといいますよ」
 そう言うと、叔父さんは私の方に耳を近づけながら、馬鹿な事をというように笑った。
 夏、叔父さんの所に泊まりに行った。
 寝ようとすると、外から変な音が聞こえてくる。ガッという鈍く重い音だ。
 周期的に聞こえるのがうるさいし、次にいつガッと来るか、気になって眠れない。そろそろ来ると思ったら、こちらの心理を見透かしたようにしなかったり、気を抜いたとたんに音がしたりと、私の気をひくためにやっているような印象すら感じる。
 暑いが窓を閉め、携帯電話の音楽を聞きながら、そのまま眠りについた。
 朝、食事が出来るまでの間に、庭を調べた。例の音が気になったからだ。
 素人らしい手作りの鹿威しが庭にある。
 そこに叔父さんが持ち帰った石が使われていた。あれは竹の筒が石の縁を叩く音だったのだ。規則正しく鳴るはずの鹿威しが、どうしてあんなに不規則だったのか。
 叔父さんにその話をすると「上手く作ってあるだろ、夜だけ動かしているん
だ」と自慢げな様子だ。音は気にならないらしい。
 叔母さんが「おとうさんは、耳が悪くて聞こえないからいいわよね」と大声でいう。
 それで叔父さんは、話をするときに耳を近づけてくるわけだ。
 石に耳があって、この会話を聞いていたらさぞかしがっかりしたことだろう。
 あの音が伝わらないのでは、叔父さんに気を持たせることは出来ないからだ。
 東北は、石までも情が深い。