来福堂『ファイト!』

俺の家は古くて、無駄に広い。付き合っていた彼女を初めて家に呼んだ時には、
「この家、何か居る。私、霊感あるのよ」
なぞと言われ、気味悪がられたが、この古さでは、さもありなん。心当たりもある。
後日、彼女は知り合いの霊能力者という派手なオバさんを連れて来て、大騒ぎして帰った。これで大丈夫、満面の笑みで彼女は言ったが、全然、大丈夫じゃなかった。
家業は傾き、両親が相次いで急逝し、友も去り、彼女も去って、広い家に俺一人が残された。
何もかも駄目になった俺は、失意の日々を過ごした。冬が近付けば一人は尚、寂しい。これから雪の季節が来る。
「皆、俺を見捨てたな。運にも見放されたし」
酒のコップを手に、畳の縁を見詰めつつ、そんな事を呟けば、違うよ、と声がした。
見れば、いつの間に入って来たのか、幼い女の子が傍らに座っていた。無断で人の家に入って来たくせに、当然のように、肴のスルメに手を伸ばす。でも、どこかで見た子だ。
「ああ、やっと動ける。何、あの禍々しい女! アレ、何か憑いてるよ。別れて正解」
不法侵入者の割には、馴々しい口調だ。
「誰だい。勝手に入っちゃ駄目だろう」
そう言えば、不服そうに口を尖らせる。
「何言うのさ、私もここの住人だよ」
いつも家に居た気配。これか、と思う。
「お前、ウチを見捨ててなかったのか」
「見捨てないよ。禍々しい者が来て、気分が悪かっただけ。災いは追い出した。幸、不幸は振り子。悪い方に振れた次は、良い方に振れるよ。今は御両親を偲ぼう。飲みなよ」
彼女はそっと、幼い手でコップに酒を注いでくれた。俺は、一人じゃない。見放されてもいなかった。思わず、涙が出た。
優しいワラシが酌をしてくれた酒を飲めば、まだやれる、そんな元気もわいてきた。