式水下流『けさら・ばさら』

 疲れた。
仰向けに寝転がって開口一番に出た言葉だった。瓦礫から必要な物を探しだし取り出す作業。いつ終わるかも分からない。疲労感は限界まできていた。
空を見たのは何ヶ月ぶりだろうか。ずっと下を見て探し物をしていた。
晴れた空は合成着色料のように不自然で青い。
 ふと白い毛のようなかたまりがフワッと風に揺られて飛んでいた。
風に揺られていると思ったら定規で線を引いたように風向きに逆らって上下左右に動いたりもした。
ずっと見ていたら何だか懐かしい気持ちがしたが、その日はそのまま瓦礫を後にして避難所に戻った。
翌日再び探し物をしているとまた白い毛のようなかたまりが宙を浮いていた。その翌日も翌々日もずっと浮いていた。何故かそれを見ていると落ち着く。
空にそれを見かけるだけで気持ちの良い一日が過ごせた気がした。
 水浸しになってヨレヨレになっていたけど家族の写真が見つかった。
父と母と亡くなった祖母が写っていた。祖母の顔を見ていたら子供の時のことを思い出した。
祖母は毎日桐箱の中に何か小動物のような物を飼っていた。白い毛のかたまり。丁度今宙に浮いている白い毛のかたまりにそっくりな。
それに毎日祖母は白粉を与えていた。幸せを運んで来てくれる物だと言っていた。祖母の遺品には一つ桐箱があったが中は空っぽだった。
 翌日、祖母が飼っていたものと同じ物かどうかは分からないけど空の白い毛のかたまりのために白粉を置いた。
見上げるとその白い毛のかたまりが良く映える綺麗な青空だった。