久芝シュウコウ『すすり』

いや、ふざけてる訳ではないんだ。真剣なんだ。
階段で麺を啜るのさ。廃校になった木造の校舎で。
時間帯は夕暮れ。季節は冬。少し風が強くても構わない。
東北の冬は厳しい。そんな寒くて暗い処で麺を啜るなんていかれてる。
ただ、東北には、稲庭うどん・山形のそば・わんこそば・冷麺・喜多方ラーメンとか、美味くて啜り甲斐のある奴らがいる。
ここで初めて啜ったのは、もう五年以上前のことだ。
それから毎年この季節が来ると、きまってここにやってくる。
そして今、目の前にさっき言った麺が並んでる。
どれを啜ろうか迷った事は一度もない。本能のままに行動するのみ。
一度たりとも噛んだ事はない。
「ズルルルルル!!」
これこれ。この感触が年に一度味わえるのなら死んでも…
「ズルルルルル!!」
あ〜最高。こんな事、本当やばいくらいに気持ち良い。
でも、今年は何か体調が優れないな。
胃の中で虫でも飼っているかのように、モゾモゾ動いている。
なんだ、この感じ。体が麺に犯されている気がする。
麺が俺の胃を破り、俺を支配している。

「お前が悪いんだ。いつも俺らを啜るから。俺らはな、本当は、啜られたいんじゃなく、噛み砕かれたいんだ。最初っから俺たちは、啜られる事を望んでいなかった。」

麺は激しく巻きつき、やがて眠りについていく。

「次のニュースです。福島県相馬市にある廃校で、今朝男性の遺体が発見されました。調べによると、太い麺のようなものを首に巻きつけて亡くなっていた模様です。近くに遺書が残されていました。」

私は、長いモノに巻かれて死ぬ事を選びまひた。相手が思っている事と、自分が思っている事って、上手く結び付かないですよね。ゴメン。

「警察は、事件性はないと見解を示しております。では、次のニュースです。」

もしあなたが、何かを啜ろうとしているなら、本当に啜っていいのか考えてみてください。